考えてみてください……「回る(スピニング)」という動きは、定型発達の脳であっても、長く続けると必ず何かしら全身に反応が起こります。
単にフラフラして転ぶとかではなく、本当に体に強い反応、たとえば「吐き気がする」「顔が赤くなる」「吐いてしまう」などが起こります。
これは、脳が自分を守ろうとしている証拠です。強すぎる刺激や影響から脳を守るために、「もうやめて!」というサインとしてこうした反応が出るのです。
なぜ遊園地の乗り物はぐるぐる回るの?
遊園地にぐるぐる回る乗り物があるのは、ただ「興奮したり、強い反応が出る」ということを利用しています。特に、長く回った後に急に回る方向を変えると、脳にはとても強烈な刺激になります。小さい頃、遊園地のコーヒーカップにのった経験を思い出してみてください。私は小さい頃コーヒーカップが好きでしたが、今は乗っても回さずにただ座っています。周りのカップを見ているだけで、十分脳への刺激が入るからです。
回る動きは支援で誤解されがち
学校やリハビリの現場では、「回転運動」が感覚統合の手法として使われることがあると思います。息子の学校でもそうですが、よく理解されないまま安易に使われていることが多いと感じています。
保護者の方も「うちの子、回るのが好きだから良いことなんだろう」と思ってしまいがちでが、
「好きだから=体に良い」とは限りません。
中には「回転しても全然平気」な子がいます。それがまるで「すごい特技」のように見られたりもしますが、実はその子の脳が回転の刺激を「脳がきちんと感じ取れていない」可能性があります。
知っておいてほしいスピニング(回転)に関する大事なポイント:
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回転運動(前庭感覚:vestibular input)は、脳が受け取る感覚の中でも最も強力な刺激の一つです。
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たった15分の回転刺激でも、6〜8時間も脳や感情の安定に影響すると言われています(良くも悪くも)。
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感覚に課題のある子の中には、回転しても全く反応を示さない(眼球の揺れ=PRNが起こらない)子もいます。
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一方で、ほんの1回転するだけで、吐き気など強い体の反応が出てしまう子もいます。
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左に回るのは大丈夫でも、右に回ると全く耐えられない――そんな子もいます(左右で感覚の違いがある)子どもも作業療法士の方にアセスメントを行ってもらった際、隔たりがあることがわかりました。右回転でも左回転で違った結果も見られました。
どうすればいいの?「安全な回転運動」のすすめ
ご家庭や療育などでスピニングを使う場合、以下のように「安全に」「少なく」「管理して」使いましょう:
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1秒に1回転のペースで、最大10回だけ回す。
→ それ以上はやらない。必ず一度止まって(1〜2秒)から逆方向に回す。 -
反応がない子(めまいを感じない子)には、うつ伏せでの回転(prone extension)を取り入れる。
→ これで脳が回転の感覚を学びやすくなります。 -
自由に・長時間回るのはNG。脳に負荷をかけすぎる恐れがあります。
実際にあった話
息子の通う学校では、生徒を支援するための取り組みのひとつとして、トランポリンが設置されています。これは、子どもが落ち着きを取り戻すために、「固有受容感覚(こゆうじゅようかんかく)」という体の動きを感じ取る感覚に刺激を与える目的で使われています。
固有受容感覚とは、たとえば自分の体の位置や動き、力の入れ具合などを感じる感覚のことです。この感覚をうまく刺激することで、体や心のバランスを整え、安心感や落ち着きを得やすくする効果があります。トランポリンは、ジャンプすることでこの感覚を強く刺激できるため、感覚統合の一環として取り入れられているのです。
しかし、学校の先生たちの間で、この感覚やトランポリンの効果・使い方についての理解が十分でないことがあります。たとえば、ある生徒が「落ち着いてきてね」と教室からトランポリンに送り出されましたが、その子はただ上下に跳ぶのではなく、いろいろな方向を見たり、体を回転させたりして跳んでしまいました。
こうしたジャンプの仕方は、むしろ感覚を過剰に刺激してしまうことがあります。その結果、本人が興奮状態になってしまい、逆に落ち着けなくなることもあるのです。
その生徒の担任の先生は、「トランポリンを使えば落ち着いて教室に戻ってこられるだろう」と思っていたのですが、実際にはその子は興奮したまま戻ってきてしまいました。このように、支援のための道具や活動も、正しく理解して使わないと、かえって逆効果になってしまうことがあります。
これだけは覚えておいてほしいこと:
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スピニング(回転)は、感覚に違いのある子には特に慎重に。
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回転させるときは「最大10回」「1秒に1回」「左右どちらも」「必ず止まる時間を挟む」。
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反応がない子にはうつ伏せ姿勢でのスピンを取り入れる。
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回転の影響は長く残る。たとえば、5時間前のスピンが原因でドアの音に過剰反応していることも。
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実は、 ブランコやハンモックのような前後・左右の「直線的な動き」の方が、脳にとっては有益で安定する効果が大きいので、できればスピニングよりそちらに力を入れましょう。
「回るのが好き=良いこと」ではなく、「どうやって、どれくらい、どんなふうに回るか」が大切なのです。